
―第2部「日本は変われるのか」―
竹中平蔵: 皆さん、大変刺激的な議論をありがとうございました。自由に話してくれといったら、本当に勝手にいろいろなことを話され(笑)、これはえらいことになってきたなというふうに思うのですが。
野村先生は、まさに「政策の正論を議論しないことが弊害」という議論をされました。冨山さんは「人的資源の危機である」ということを強調されました。加藤先生は「官依存の体質が民にもあるということも含めて、官依存の体質の問題意識」を福沢諭吉を例にとってお話になりました。松原先生は3つの視点、「目標・中長期の戦略・総合的ということを踏まえて、やはり頑張るべきところは頑張らなければいけない」という話をされました。木村さんは、CRICサイクルのフェルドマンさんの意味づけ、解釈をさらに深めた上で、「歪んだ実態、歪んだルールそのものを、この国の中の議論の仕方そのものに根本的な危機感を持つ」という話をされたんだと思います。
これらの論点について、チャレンジするところがあれば言っていただきたいのと、もう1つ、格差の問題と地方の再生の問題というのは、政治つまり永田町とマスコミは大好きなんですけれど、この問題に対して、政策的な観点から言うべきことがある方もいらっしゃると思います。今の点を踏まえて、手短に自由にご議論をいただきたいと思います。……
ロバート・フェルドマン: 明治時代は野口英世というすばらしい方が、冨山さんがおっしゃる水飲み百姓の家族から生まれて世界で活躍しました。なぜそういう人が今いないのか。これはルールが歪んでいるからだと思いますからね、企業に関するルールです。
冨山和彦: 格差と地方の話でいうと、明らかに問題のすり替えがあって、地方の問題の本質は、繰り返しになりますが人材の格差です。人材の質の格差です。地方の人材の空洞化ははなはだしいです。
これは先ほどの話とちょっと重なるのですが、地方というのは恐ろしい格差社会です。これは身分制で固定化された格差社会です。ほとんどオーナーで す。会社もオーナー、政治家もオーナー、世襲です。竹中さんも私も和歌山出身でございますが、そういうところで普通の町人とか農民の子どもに生まれると チャンスがありません。したがって、ちょっと勉強ができる人は東京の大学なんかに行ってしまって、それっきり帰りません。それが恐らく戦後50年ぐらい繰 り返されているので、恐ろしいほど人材がいないのです。
その中にいくら金をばら撒いても、もともといる殿様たちのベンツになってしまうだけなのです。なんで、今ピーピー言っているかというと、そのベンツ が10年ぐらい買い換えられないから、「もう買い換えたい」といってピーピー言っているのが実態です。これは地方の企業再生をやっていると、よくわかりま す。すごいですよ、その搾取は、本当にすごいです。
実はそういうところに問題の本質がありますから、今言われているばら撒きの議論というのはほとんど無意味というか、むしろ状況を悪化させます。要す るにせっかく既得権のガチガチの構造が崩れかかっている、今、かなり弱くなって、つぶれる会社も出てきているんです。再生機構で何をやるかというと、だい たい基本的にはオーナー一族の追放なんです。ですから、平和な革命をやっているわけです。
そうすると何が起きるかというと、地域の町民の子どもや農民の子どもたち、優秀な子たちが就職したいとみんな来るのです。東京に行った子たちが田舎に帰ってくるんです。そういったことをやらなければいけないのですが、今やっていることは基本的には逆のことが起きます。
それともう1点、格差の問題でいうと、根っこは生産性の格差です。競争力の格差です。この競争力の格差は、別に竹中さんのせいでも、“ゴジラ”のせ いでもなくて、グローバリゼーションなんです。要するに私たちは知らない間に、これは実は小売業でも、実は観光業でもそうですが、すべて知らない間に私た ちは中国やインドの上位10%の人たちと競争しているんです。
したがって、競争力を高めて付加価値生産力を高めない限り、所得は上がらないのです。そこから目をそむけて、一生懸命所得の再配分をやると何が起きるかというと、今度は人とお金の空洞化が起きます。
要するに所得再配分をやるということは、優秀な人、効率のいいところをペナライズするということになりますから、優秀な人、お金、知識が日本から逃 げていきます。そうすると全体の国富が減り、本当に国が貧しくなったときに一番悲惨な目にあうのは、一番下層にいる町民や農民なんです。
ですから、実は今やっていることは全く逆で、これをどんどんやっていけばやっていくほど、実は格差は開いていくんです。明らかに、今の処方箋は間 違っている、なぜ間違えるかという根本的な原因は、一番見たくない現実は競争力の格差ですから、そこから目をそむけるからだと思っています。
※この記事は、2008年1月4日にアカデミーヒルズで開催したパネルディスカッション「政治経済の混迷を斬る ~“竹中チーム”再結集~ at アカデミーヒルズ」の全文掲載です。全29章中の第18章に当たります。
※当日使用した資料は、「チーム・ポリシーウォッチ」のサイトで公開されています。
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