
米倉誠一郎: 経済や行政を縦軸に、建築や美術といった文化を横軸にして、これからの東京を考えてみたいと思います。
さて、今年(2007年)5月10日にスイスの国際経営開発研究所が発表した「世界競争力ランキング」によりますと、日本は昨年の16位から24位にダウンしています。また、森ビルが昨年、アジアのビジネスマン500人に行ったアンケート調査では……
現在の東京は「ビジネスをする上で魅力的な都市」として59%の支持を集めています。しかし、10年後では支持率は25%に留まるという結果も出ています。
竹中さん、経済の面からみて東京をどうごらんになりますか。
竹中平蔵: 実は今日(5月16日)、政府が「ゲートウェイ国家構想」を発表しました。安倍総理大臣が最初の国会演説で「日本が国際社会においてどうあるべきかを考えよう」といいましたが、これがその答えです。
アメリカが超大国として経済発展を続けている。一方で、アジアでは中国がどんどん経済発展を続けています。ひょっとしたら2010年代のどこかで、中国のGDPは日本を超えるかもしれない。そういうなかで、日本はどういう立ち位置を目指せばいいか。その答えが「欧米とアジアをつなぐゲートウェイの役割」。そのために何をしたらいいかをずっと総理官邸で議論をしていたのですが、その具体的な政策が今日発表されたわけです。
しかしながら、今日、発表された政策は、私にとって満足する内容ではありませんでした。東京は、上海や北京と比べて生産量、消費量、どれをとっても大きいです。もちろん、成長率は上海のほうが高いけれど、いろいろな指標を見る限り、東京のほうがまだはるかに勝っています。
東京が本当にゲートウェイとして、アジアの中心的な役割を果たすために必要なのは、シンボリックに言うならば、「東京と香港を日帰り圏にすること」です。
東京とソウルは日帰り圏になりました。「羽田―金浦」のシャトル便が飛んでいます。「東京―上海」の距離は「東京―福岡」の距離のちょうど2倍ですが、現実的には日帰りはできません。「東京―香港」だって、わずか4時間です。
例えば、7時の飛行機に乗れば11時(日本時間)に着いて、向こうで半日ほど過ごして夜に帰ってくることができるはず。羽田が使えば十分に日帰り圏内になるんです。そういう政策を期待していたのですが、官僚の厚い壁に阻まれてできませんでした。
経済に関して言うならば、東京は大変魅力のある街になりつつある。それにもかかわらず、この非常に重要なチャンスにブレークスルーするような政策が打てなかったことが、私は残念でなりません。このまま「建設的な危機感」を欠いた政策を続けていれば、東京は地盤沈下してしまう。そうならないように、各方面でいろいろな人に頑張ってもらいたい。そんなふうに思っているところです。
米倉誠一郎: 例えば、福岡から欧州にいくには仁川国際空港を経由したほうが早い。福岡から羽田に飛んで、電車に乗り換えて成田まで行って世界に飛ぶとなったら、それだけで何時間もかかってしまう。誰が考えてもおかしいですよね。その原因はやはり「官僚の壁」なんですか。
竹中平蔵: 成田空港は評判が悪いけれど、それでもまだ何とか役割を果たしてるんですよ。「成田―北米」路線は、「仁川―北米」路線の3倍、「成田―欧州」路線は、「仁川―欧州」路線の5倍飛んでいます。だから、例えば、香港やシンガポールの人が今日中になんとかニューヨークに商品見本を届けたい時は「とにかく成田に送れ。成田に送りさえすれば何とかなる」と言っている。
しかし、東京には羽田空港というもっと便利な空港があります。東京のゲートウェイ機能を強化するのは実は可能なんです。羽田を24時間空港にして、空港側に路線を決めさせればいい。つまり、「香港との間に何時の便を飛ばすか」を、国土交通省が決めるのではなく、エアラインと空港が決めればいいんです。そうすれば、利益最大化の観点から利用者にもっとも便利な路線を割当てるでしょう。これが、路線の割当権をそれぞれの空港に任せるという「オープンスカイ」、つまり、空港の自由化です。
ところが、国土交通省は既得権益を手放したくないから反対するわけです。政府系金融機関が貸し込んでいる航空会社を競争から守りたいという意図もあるのかもしれません。いずれにせよ、そういったレベルのことで、私たちの大切な日本の、東京の、世界戦略が阻まれているんだと私は思います。
米倉誠一郎: 国の中のロジックでしか考えられないことが、世界との乖離を生んでいるという気がしますね。
(この記事は、2007年5月16日にアカデミーヒルズで開催したパネルディスカッション「これからの東京 ~ビジネスと感性が融合する都市像~」(第38期アーク都市塾オープニング記念セミナー)の全文掲載です。全16章あり、そのうちの第1章に当たります)
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