講演テーマ013:カフェブレイク・ブックトーク「源氏物語千年」

2008年7月23日 (水)

源氏は物語絵でも楽しまれた

カフェブレイク・ブックトーク「源氏物語千年」その7

『文読む姿の西東―描かれた読書と書物史』 澁川雅俊: 私たちは一般に絵巻物を美術品と見ていますが、こと物語絵については物語をもっと楽しみたいという欲求に応じて制作されたと考えるべきでしょう。例えば『文読む姿の西東―描かれた読書と書物史』(田村俊作編、07年慶應義塾大学出版会刊)でも取り上げられているように、お付きに物語を読ませ、その絵巻や画帖を楽しんでいる姫たちの読書の姿が奈良絵本・絵巻の挿絵にしばしば現れてきます。事実源氏にも姫たちが絵巻を見ながら『竹取物語』などの昔物語を楽しんでいる様子が所々に書かれています。

源氏の物語絵は源氏絵と呼ばれていますが、その制作を促進したもう一つの要因は物語が彩色に優れていることでしょう。風景、造園、建物、室内装飾、衣装・小物などの彩りが豊かで、絵師たちの創作意欲を掻き立てたに違いありません。

現存する最も古い源氏絵は……

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2008年7月16日 (水)

源氏に書かれている千年前の人々の暮らし

カフェブレイク・ブックトーク「源氏物語千年」その6

『光源氏が愛した王朝ブランド品』『季語で読む源氏物語』 澁川雅俊: 有職故実(ユウソクコジツ)という慣用句があります。それは厳密には古来の、この場合にはそれ以前の先例に基づき、官職・儀式・装束などを研究することですが、源氏の読み方で次に大事なことは、それらを含め千年前の政治・経済・社会体制や自然・文化・生活などのことどもです。別な言い方をするならば、源氏で描かれている風景、建物・造園、室内装飾・調度品、衣装・小物、儀礼、学芸・文具、旅、食べ物、受贈品、病気・医療、信仰、政治体制・権力・財力等々の有り様です。

『源氏物語の京都案内』『源氏物語の近江を歩く』最近出版されている関連の本の中には、そういう側面から源氏を分析したり、考察したりしているものも少なくありません。例えば自然、風景、風習などを四季でみた『季語で読む源氏物語』(西村和子著、07年飯塚書店刊)があり、室内装飾や道具類あるいは衣装と小物類について源氏本文にしばしば出てくる「唐物」という外来品に関して平安日本の海外交流を調べた『源氏物語と東アジア世界』(河添房江著、07年日本放送出版協会刊)『光源氏が愛した王朝ブランド品』(河添房江著、08角川学芸出版刊)などがあります。……

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2008年7月 7日 (月)

和歌による想いのやりとり

カフェブレイク・ブックトーク「源氏物語千年」その5

『源氏物語と和歌を学ぶ人のために』 澁川雅俊: 源氏では物語の筋の展開の要所々々に登場人物のやりとりで、贈歌と返歌による和歌の応酬があります。全巻で795首収められており、物語のそれぞれの状況で主人公だけではなく、登場する人物もさまざまな想いを和歌で表しています。『源氏物語と和歌を学ぶ人のために』(加藤睦・小嶋菜温子編、07年世界思想社刊)が出されたことは、やはりそれらに対する理解が重要だということです。もっともこのことは源氏に先行する『竹取物語』や『伊勢物語』などの王朝物語を楽しむ場合も同様です。

もっとも源氏の和歌については紫式部自身が本文中で……

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2008年6月27日 (金)

じっくり楽しむなら寂聴、すばやく読みとりたいなら円地文子

カフェブレイク・ブックトーク「源氏物語千年」その4

円地文子の源氏物語澁川雅俊: そういう読み方をすると、晶子、谷崎、円地、聖子、寂聴と読んでみてどれが読みやすいかと気になるところですね。

私は国文学者ではありません。普通の小説読者の一人です。そうした読み手としての印象では寂聴が最も読みやすく、集中できました。じっくり読み込めば物語だけではなく、フィクションとはいいながらその時代日本人社会の中心であった人々の暮らしや想いがよくわかったような気がしました。しかしそれは全10巻という長編にわたるもので、いささか忍耐力が必要でした。

その点円地のものは、全3巻でそれほど長くなく、訳文もこなれた現代文で読みやすく、お忙しい人にはお薦めです。特にそれには各篇の冒頭に物語の要約があり、またその篇に登場する人物像が注記と系図で示されている点は、初めて読むときの助けになります。谷崎の訳は……

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2008年6月18日 (水)

いま源氏を読む

カフェブレイク・ブックトーク「源氏物語千年」その3

『世界の源氏物語―グロ-バルな視点から、その文学と意匠の深遠を探る』『国境を越えた源氏物語―紫式部とシェイクスピアの響きあい』 澁川雅俊: 近年源氏を中心とした比較文学研究やその評価について、『国境を越えた源氏物語―紫式部とシェイクスピアの響きあい』(岡野弘彦、他著、2007年PHP研究所刊)『世界の源氏物語―グロ-バルな視点から、その文学と意匠の深遠を探る』(ドナルド・キーン著、2008年ランダムハウス講談社刊)が出さました。

またライブラリーにウェイリーの英訳"The Tale of Genji"(Charles E. Tuttle社刊)がありますが、英訳はもとより20に近い言語で翻訳されているとのことですから、それはいま世界中に知られています。

『あさきゆめみし』 ですから、日本人なら中学生以上の人たちはみなこの物語のことを知っているはずです。しかしそれほどよく知られていても、それを読んだという人たちはそれほど多くないのではないでしょうか。もっとも中にはまんが『あさきゆめみし』(大和和紀、講談社刊)を見ている方々もたくさんいるかもしれません。……

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2008年6月 9日 (月)

源氏物語千年の伝承~それは写本や板本を通じて伝えられてきた~

カフェブレイク・ブックトーク「源氏物語千年」その2

『かなの美』 澁川雅俊: 面白い物語ということで、源氏は平安宮廷の周辺で盛んに書き写されて読まれました。それまでに、百万塔陀羅尼経の制作で知られているように、印刷という方法が無かったわけではありません。しかし書物は、漢字の渡来以来長い間、紙面に文字を書くことによって作られていました。現代に伝えられているこの物語は、そのようにして作られた数えようもないほどの写本を、後の鎌倉時代に藤原定家やその他の有識といわれた人たちによって再編纂されて書写され、さらにその写本がまた書き写されて代々の教養人に広まっていったのです。

源氏の写本とは具体的にどのようなものであったのでしょうか。……

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2008年5月28日 (水)

源氏物語の始まり

カフェブレイク・ブックトーク「源氏物語千年」その1

源氏物語 澁川雅俊: 源氏物語(以下「源氏」)が書かれてから今年で千年の年月が経ったといわれています。千年紀ということで、大小さまざまな展覧会や催しがいま行われています。

源氏は創作物語として世界で最古のものです。そんなに古い小説の現代ヴァージョンが出版されたり、映画や演劇や舞踊で演じられたり漫画に描かれたり、また紙幣のデザインに使われたりするなどということは、世界の文学史上稀有なことです。

『源氏物語「みやびの世界」序説』 物語は、銀のスプーンをくわえて生まれてきた千年前のセレブリティな男光源氏と、その息子と孫息子にわたる恋と愛欲、そしてそれに応ずる貴女たちの想いと振る舞いを主筋とした大河ドラマです。読んでみて日本人の恋愛の考えや行為が……

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2008年4月23日 (水)

澁川雅俊 プロフィール

2澁川雅俊 澁川雅俊(しぶかわ・まさとし)
アカデミーヒルズ六本木ライブラリーフェロー

1938年生まれ、福島県会津若松市出身。慶應義塾大学文学部図書館学科卒業後、慶応義塾に勤務して図書館業務に携わり、大学メディアネット事務長などを歴任。96~04年まで慶応義塾大学環境情報学部教授を務めるなど、教職者としても活躍。

――この人物、自らをフィロビブロン(愛書家)と称してはばからない。経歴をみると、確かに単なる本好きオタクではない。

1960年代の初めに慶應義塾大学で図書館学を学び、卒業後同大学図書館に勤務。勤務開始早々に、ちょっと場違いのようだが……

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